認知症の人は「言ってもすぐ忘れる人」なのか?
多くの人は、認知症や知的障害のある人のことを「何も分からない人」「言ってもすぐ忘れる人」と考えているようです。
しかし、近年の研究では、認知症の人は10分前にご飯を食べたことを忘れるなど、最近おこった新しい出来事を覚えていなくても、実は、感情としては残っているのだということがわかってきました。
つまり、誰かが、「馬鹿にした」「怒鳴った」「無視した」と感じた場合、「いつ、何を言われたか」などの内容は覚えていなくても、屈辱的な感情だけは残るということです。
これは知的障害の人の場合もほとんど同じように考えていいでしょう。
彼らは、決して、何も分からない人というわけではないのです。
ところで、かつて、認知症や知的障害のある人からは選挙権を失わせるとする法律(公職選挙法)がありました。
正確には、認知症や知的障害があるために金銭管理等を他者にゆだねる成年後見制度を利用している人の選挙権を喪失させるという内容の法律です。
確かに、認知症や知的障害を有する人は、候補者の訴えている政策についての判断や誰に投票すべきかという判断ができない人が多いというのは事実でしょう。
また、これらの人の選挙権は、特定の候補者の得票を伸ばすために悪用されることも十分考えられます。
では、これらの人から選挙権を奪うことは許されることなのでしょうか。
従前の憲法学会の学説では、これらの人から選挙権を喪失させることには何ら問題がない。
つまり、憲法違反とは言えないとしていました。
しかし、私は、これらの人から選挙権を安易に奪うことは許されない。
憲法違反であると考え、その主張を立証する論文を発表しました。
かかる論文の発表から数年後、とある弁護士さんから各地で、選挙権回復訴訟を展開してるとの連絡を受け、訴訟のお手伝いをすることなりました。
結論だけ申しあげると、勝訴です。
認知症や知的障害であっても、安易に権利を奪うことは許されないという主張が裁判所に認められたのです。
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