コラム

子どもに寄り添う大切さ

 
私が「児童相談所」に勤めている時の話です。

5月のある日、中学3年のMさんが母親に連れられて来られました。
来談した理由は、「不登校」です。
中学2年の2学期から登校しぶりが見られ、中学3年からは不登校とのことです。

母親は学校に行けないMさんに1日も早く登校してもらいたいと思い、「先生、2~3週間で登校できますか?」と尋ねられました。

私は「2~3週間では無理だと思います。本人と付き合ってみなければ、いつ登校できるかわかりません。」と答えました。
その時の母親の落胆した姿が今も目に浮かびます。母親の話(悩み)を聞いてからMさんに会いました。

Mさんに「こんにちは!」と挨拶すると、うつむき加減に首を少し振りました。

相談所は何をするところか、どういう設備があるのかなどを説明しました。
Mさんは憔悴しきった様子で、ずっと下を向いたままでした。
「相談所に来られますか?」と尋ねると、小さく頷きました。
それからMさんとの付き合いが始まりました。

次に来られた時に、「Mさんの好きなことをしていいんだよ。」と言いましたが、じっとしたままでした。
そのまま、二人で静かな時間を過ごし、その日は終えました。
「帰り際、また、来る?」
と尋ねると、小さく頷きました。

その後、何回か何もしない日を過ごした後、生活体験室での陶芸に誘ってみました。
Mさんは、何も作らず土をこねるだけで終わりました。
その時、まだ創作的な力は蘇っていないなと思いました。
しかし、その後、Mさんは持参した「ジグソーパズル」を作ったり、毎回「少年ジャンプ」を持ってきて、漫画のストーリーを話すようになり、さらに、「猫」も連れてくるようになりました。
そして、9月になり、Mさんは「私は獣医になりたいので、高校に行きます。」と宣言し、塾に通い、翌年、高校に入学し、元気に登校するようになりました。

子どもが自立するためには、焦らずに気長に付き合う(寄り添う)ことが大切です。

この記事を書いた人
佐伯 文昭
佐伯 文昭 - さえき ふみあき -

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