コラム

“人に迷惑をかけないこと”は、難しい

10年ほど前だったか、なにかお金のかからない、手軽な趣味を持とうと思って、「古新聞・チラシへの落書き」に熱中した時期があった。

世の中、こんなことを楽しいと思う人が他にいるかどうかは、知らない。

まず、写真が載っている古新聞や折り込みチラシを用意する。
例えば、スーパーのチラシでツヤツヤ光る山盛りのプチトマト(特売、¥280)に、ボールペンで一つ一つ丁寧に老人の顔を描いていく。
落書きした後、何をするわけでもなく、古新聞の山に戻すだけである。
当時、様々な落書きパターンを生み出して一人で悦に入っていた。
「食材に顔を書く」というのが基本で、他には「力士をロボット化する」「イケメンに化粧する」などの人物パターンも開発した。
ただし、自己ルールがあって、素材とするのは、企業の広告やスーパーのチラシのみ。
悲惨な事件等の報道写真には決して手を出さない (こんなことをしている時点で、十分人から眉をひそめられることなのだが、せめてもの自己規制である)。

まあまあ達成感があり、ストレス解消になった。

 ところが、この趣味は家族に大変な不評だった。
「さて、夕飯は何にしようか」と、買い物プランを練るため何気なくスーパーのチラシを広げた妻の目に、「ハロウィーンのお化けカボチャの顔がびっしりと描かれた山盛りの卵」や、「通常の5倍はヒゲ根が生えたヤマイモ」が飛び込んできて、「気持ち悪い」と怒られた。
もっと悪いことに、子どもが学校の授業で、習字をするために家から持って行った古新聞を机に広げると、新聞全面に掲載された「商品をもってにこやかにほほ笑む女優さん」の写真に、歌舞伎役者のような隈取を描いた力作が出現するといった事態に陥ったわけである。
それで、家族会議の結果、断腸の思いで「古新聞・チラシへの落書き界」から引退することにした。

人に迷惑をかけないということは、なかなか難しい。

この記事を書いた人
岩間 文雄
岩間 文雄 - いわま ふみお -

RELATED POST関連記事

  • 「あたりまえ」について
    私たちは日常生活で「あたりまえ」という言葉をよく使い、耳にします。 学校に行くのは「あたりまえ」。 異性を好きになるのが「あたりまえ」。 大人の言うことを聞くのは「あたりまえ」などなど。 「あたりまえ [...続きを読む]
  • 子どもと学校、家庭、地域を結ぶ専門職「スクールソーシャルワーカー(SSW)」を養成
    ~スクールソーシャルワーカー(SSW)とは?~  勉強、友だちとの関係、家庭の問題など、誰にも言えない悩みを抱えて学校生活に適応できなくなる児童・生徒も少なくありません。時には、人間関係のもつれから不 [...続きを読む]
  • 福祉はゴール?でもなんでもない!
      「ローマ人の物語」の作者である塩野七海さんは、著書の中で「福祉によって誇りは満たされない。」と述べています。 この言葉だけだと誤解を招く(福祉は必要ではない等)ので、今少し考えていく必要 [...続きを読む]

LATEST POST最新の記事

  • 成功のカギは、結果が出るまで「待つ」ことができるかどうか
      競技スポーツには常に勝者と敗者が存在し、その差はごく僅か、紙一重です。 勝ち負けは2分の1、5割の確率で決まりますが、アスリート個人のパフォーマンスはどのくらいの確率で「成功」となるので [...続きを読む]
  • 言うまでもないこと
      先日、「暗黙の了解です」「言うまでもない前提なので」という事態に直面しました。 個人的には「ちゃんと言ってくれていたら・・・」という気持ちになりましたが、このような言わずもがなの事項は身 [...続きを読む]
  • 色彩と印象
      人は、第1印象(1秒~6秒程度)を、 ①外見や服装 ②表情・視線 ③話し方・声の質 ④しぐさ・姿勢 ⑤話す内容 で決定しているそうで、このことを「初頭効果」と言います。 初頭効果とは、最 [...続きを読む]
PAGE TOP