コラム

捕虫網でとれるもの

社会福祉学部の学生は、4年次生の夏には国家試験の勉強に本格的に取り組み始める。
研究室の一部を自習スペースとして開放しているので、初夏にはそこで毎年何人か学生が一日中根を詰めて勉強している。
それはいいのだが、人間そんなに集中力が続くわけがないので、ついにはダレてきて、おしゃべりばかりで時間が過ぎる日も出てきてしまう。
そんな時の気分転換のために、わが研究室では捕虫網をロッカーに常備している。
集中力のきれたゼミ生を、キャンパス内での「セミ捕り」に誘うのである。
大学内には、トウカエデや桜がたくさん生えている。林とまではいわないが、関西福祉大学が開学したころ植樹された若木が、20年以上経って、今ではどれも堂々たる大木に育っている。

昨夏も、「休憩にセミ捕りに行くか」というと、Mくん、Nさんが興味を示して、日焼けも気にせず、殊勝にもアラフィフのおっさんとのセミ捕りに付き合ってくれた。
しかし、その時は8月に入ったばかりでまだ時期が早かったのか、あまりセミは捕れなかった。ジージーと鳴いてはいるのだが、手の届かない高いところにとまっているのが多い。
気のせいか、盆過ぎのセミに比べて動きも素早いように感じる。汗を流しながら歩き回って、4~5匹捕れたくらいだった。

セミ捕りの一団を学内で見かけた学生の反応は、そっけない。
女子学生など「この暑いのに、あの人たちなにやってんの?」という目で遠巻きに眺めている。男子学生も、チラッとみて特に何も言わないことが多い。
ところが、Mくん、気がついて「先生、捕虫網持っていると、おじさんにやたら話しかけられますね。」といった。
確かに、「何しているんですか?」「子どものころを思い出すね~」と、中年以上の男性教職員がよく話しかけてくれる。
捕虫網は、セミ以上に「おじさんの童心」を捕まえることがわかった。

この記事を書いた人
岩間 文雄
岩間 文雄 - いわま ふみお -

RELATED POST関連記事

  • 「新型コロナと福祉思想」その5―経済活動への眼差し、アルフレッド・マーシャルの視点―
    一方で感染拡大を防ぎながら、もう一方で経済活動を徐々に再開させていく。 いま、そうした状況にいます。 私は経済学者ではありませんが、経済学にはアルフレッド・マーシャルの「Cool Heads but [...続きを読む]
  • 忘れられない自閉症児との出会い
      私が「児童相談所」に勤めている時の話です。 当時、アメリカのベッテルハイム博士は、「自閉症とは、冷たく拒否的で冷蔵庫のような心をもった母親(冷蔵庫マザー:refrigerator mot [...続きを読む]
  • 悩ましさに悩む①
      昨日の失敗を繰り返さない、今日の努力が明日の成功につながる。 子どもの頃によく聞いた言葉です。 しかし近年、「今この瞬間に着目する」「今を生きる」ことが注目され、それらは心理学の分野では [...続きを読む]

LATEST POST最新の記事

  • 成功のカギは、結果が出るまで「待つ」ことができるかどうか
      競技スポーツには常に勝者と敗者が存在し、その差はごく僅か、紙一重です。 勝ち負けは2分の1、5割の確率で決まりますが、アスリート個人のパフォーマンスはどのくらいの確率で「成功」となるので [...続きを読む]
  • 言うまでもないこと
      先日、「暗黙の了解です」「言うまでもない前提なので」という事態に直面しました。 個人的には「ちゃんと言ってくれていたら・・・」という気持ちになりましたが、このような言わずもがなの事項は身 [...続きを読む]
  • 色彩と印象
      人は、第1印象(1秒~6秒程度)を、 ①外見や服装 ②表情・視線 ③話し方・声の質 ④しぐさ・姿勢 ⑤話す内容 で決定しているそうで、このことを「初頭効果」と言います。 初頭効果とは、最 [...続きを読む]
PAGE TOP