コラム

自己覚知について

 
本学社会福祉学部では、日本におけるソーシャルワーカーの国家資格である社会福祉士、精神保健福祉士の国家試験受験資格が取得可能である。

私は、大学でソーシャルワーカーが用いる相談援助の方法(ソーシャルワーク)を教える科目を担当している。

この科目で一般的に用いられるほとんどのテキストでは、ソーシャルワーカーにとって「自己覚知が必要である」とされている。

自己覚知とは、援助者であるワーカー自身が自分の感じ方、考え方の傾向、知識や技量について意識化し、自ら把握しておくことである。

自己覚知が必要だとされるのには、もちろん理由がある。

ソーシャルワーカーは、サービスの利用者の主体性を大切にし、問題を抱えた当事者自身が自ら問題解決に向けて取り組むことを重要視する。そのため、ソーシャルワーカーが自分自身についてよく理解しておかないと、サービスの利用者をありのまま理解できず私情や偏見にひきずられてゆがんだ捉え方をしてしまう可能性がある。
また、ワーカーが感情的反応をコントロールできずに、サービスの利用者に対してバランスの取れたかかわりが出来なくなってしまうことが危惧されるためである。

テキストで教えられている通り、対人援助の専門職であるソーシャルワーカーにとって自己覚知は不可欠であるといえるだろう。

しかし、非常に大切な一方で、自己覚知に至るのは大変難しいことでもあると思う。

私は科目担当者として「自己覚知が大切だ」と教える立場にあるのだが、「では、あなたは自分についてよく理解しているか」と聞かれれば、50歳になった最近になってもきっぱりハイと答える自信はない。

年齢を重ねるにつれて自分が変化していくので、「これで自己覚知が完了した」というものでないという側面もあるのだが、それ以前に自分は何を大切に生きているか、人にどういう人物だと思われているかといった基本的な自分像についてさえ、イメージすら持てていないのではないかと我ながら情けなくなることがしばしばある。

大切なことは、言葉にすればシンプルである。しかし、それを実行するとなると本当に難しい。

この記事を書いた人
岩間 文雄
岩間 文雄 - いわま ふみお -

RELATED POST関連記事

  • 2020/06/11
    「新型コロナと福祉思想」その4―ランプの灯を少しだけ高くかかげる―
    昭和23年9月3日に来日したヘレン・ケラーは、講演会で「あなたのランプの灯をもう少し高くかかげてください。見えない人々の行く手を照らすために」と話されたと言います。 ランプの灯を少し高くすると、その分 [...続きを読む]
  • 災害ボランティアと受援力
    1995年の阪神・淡路大震災では、死者約6,434人という大きな被害がありました。 そして震災で被災した方へ支援するために、1995年から約1年間に約137万人がボランティア活動をしており、その様子を [...続きを読む]
  • 生きること自体に対する不平等 ―人間平等を再考する―
      関西福祉大学の建学の精神の1つに「人間平等」があります。 これは、「人間は、一人ひとり違う。しかし、“大切な存在である”という意味(価値)においては平等である」ことを意味します。 そして [...続きを読む]

LATEST POST最新の記事

  • 成功のカギは、結果が出るまで「待つ」ことができるかどうか
      競技スポーツには常に勝者と敗者が存在し、その差はごく僅か、紙一重です。 勝ち負けは2分の1、5割の確率で決まりますが、アスリート個人のパフォーマンスはどのくらいの確率で「成功」となるので [...続きを読む]
  • 言うまでもないこと
      先日、「暗黙の了解です」「言うまでもない前提なので」という事態に直面しました。 個人的には「ちゃんと言ってくれていたら・・・」という気持ちになりましたが、このような言わずもがなの事項は身 [...続きを読む]
  • 色彩と印象
      人は、第1印象(1秒~6秒程度)を、 ①外見や服装 ②表情・視線 ③話し方・声の質 ④しぐさ・姿勢 ⑤話す内容 で決定しているそうで、このことを「初頭効果」と言います。 初頭効果とは、最 [...続きを読む]
PAGE TOP