自己覚知について
本学社会福祉学部では、日本におけるソーシャルワーカーの国家資格である社会福祉士、精神保健福祉士の国家試験受験資格が取得可能である。
私は、大学でソーシャルワーカーが用いる相談援助の方法(ソーシャルワーク)を教える科目を担当している。
この科目で一般的に用いられるほとんどのテキストでは、ソーシャルワーカーにとって「自己覚知が必要である」とされている。
自己覚知とは、援助者であるワーカー自身が自分の感じ方、考え方の傾向、知識や技量について意識化し、自ら把握しておくことである。
自己覚知が必要だとされるのには、もちろん理由がある。
ソーシャルワーカーは、サービスの利用者の主体性を大切にし、問題を抱えた当事者自身が自ら問題解決に向けて取り組むことを重要視する。そのため、ソーシャルワーカーが自分自身についてよく理解しておかないと、サービスの利用者をありのまま理解できず私情や偏見にひきずられてゆがんだ捉え方をしてしまう可能性がある。
また、ワーカーが感情的反応をコントロールできずに、サービスの利用者に対してバランスの取れたかかわりが出来なくなってしまうことが危惧されるためである。
テキストで教えられている通り、対人援助の専門職であるソーシャルワーカーにとって自己覚知は不可欠であるといえるだろう。
しかし、非常に大切な一方で、自己覚知に至るのは大変難しいことでもあると思う。
私は科目担当者として「自己覚知が大切だ」と教える立場にあるのだが、「では、あなたは自分についてよく理解しているか」と聞かれれば、50歳になった最近になってもきっぱりハイと答える自信はない。
年齢を重ねるにつれて自分が変化していくので、「これで自己覚知が完了した」というものでないという側面もあるのだが、それ以前に自分は何を大切に生きているか、人にどういう人物だと思われているかといった基本的な自分像についてさえ、イメージすら持てていないのではないかと我ながら情けなくなることがしばしばある。
大切なことは、言葉にすればシンプルである。しかし、それを実行するとなると本当に難しい。
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