コラム

「嫌いではない」ことの価値をあげよう!

 
「〇〇は好き?」と尋ねられたら、どう答えますか?

僕は、自分の答えに自信がなくて困る時があります。
例えば、「好き」ではあるけれど「大好き」という程ではない場合や、「〇〇も好きだけど、今は△△のほうが好きなんだよなぁ」ということです。
そして、「好き」と答えてしまうと、「一番好き?」「ずっと好き?」等の質問をされるのではないかと、つい身構えてしまいます。

しかし、「好き」という感覚はそもそも好みのようなものであり、あとから「もっと好き」なものが現れても何も不思議ではありません。

つまり、「好き」は絶対的なものではないのです。

一方で、「嫌い」の場合はどうでしょうか。

「もっと嫌い」が現れても、そもそもの「嫌い」は「嫌い」のままです。
その意味では、「嫌い」は変わりにくく確かな基準と言えます。

例えば、自分とよく一緒にいる友達をイメージしてください。
彼らのことを「大好き!」「一番好き!」「ずっと好き!」とは断言できなくても、「嫌いではない」ことは自信をもって言えるのではないでしょうか。

また、アルバイトや習い事など、愚痴を言いながらでも取り組めていることも「嫌いではない」ことのひとつです。
「嫌いではない」と言う表現は「好き」ではない等のマイナスイメージもありますが、実際には、これからも「嫌い」にはならないし、一緒にいることが出来る・取り組めている等のプラスの面があることに気づきます。

もし、あなたが大学生であれば、就職活動では「好き」な仕事を探そうとすると思います。
しかし、その仕事に転勤があることを嫌だと感じていればそれを「好き」だとは言えなくなり、「もっと好き」な仕事を探してしまうかもしれません。
確かに、転勤など「好き」と思うことが難しいことはありますが、給与やその他の条件も含めればその仕事は「嫌いではない」と考える余地もあります。

その意味では、「好き」よりも「嫌いではない」ことのほうが、現実的な着地点を見つけるうえで有効と言えます。

我々の身の回りにある仕事や人については、「好き」なところもあれば「嫌い」なところもあるものです。

日々、それらを心のなかで調整・統合させて相手(対象)と関わりますが、その折り合いをつける営みにはゴールも正解もありません。
そのため、「好き」か「嫌い」のどちらかに分かりやすく分類したくなりますが、そのような二者択一を強いること自体が無理なため、結果的にお互いを窮屈な関係性に陥れがちです。

逆に、好きでもあるし嫌いでもあることを相互に許し合えれば、そのことで自分と相手(対象)のやさしい距離感が見つけやすくなります。

「嫌いではない」ことは、その足掛かりとして大切なものです。

なお、この話題に関連するものとして、臨床心理学には「妄想-分裂ポジション」「抑うつポジション」という概念があります。
興味がある方は検索してみてください。

この記事を書いた人
森 歩夢
森 歩夢 - もり あゆむ -
児童養護施設で十数年間、心理職として勤務していました。その経験を活かして、学生のみなさんには実際の支援現場で役立つ内容を伝えたいと思います。また、僕自身が聴覚障害者であり「みんなとは違う」という体験からカウンセラーや福祉に興味をもちました。今でも「自分だけ」という悩みを抱える人に寄り添える支援者でありたいと思っています。

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