コラム

「新型コロナと福祉思想」その5―経済活動への眼差し、アルフレッド・マーシャルの視点―

一方で感染拡大を防ぎながら、もう一方で経済活動を徐々に再開させていく。

いま、そうした状況にいます。

私は経済学者ではありませんが、経済学にはアルフレッド・マーシャルの「Cool Heads but Warm Hearts(冷静な頭脳,されど温かな心)」という視点があると聞きます。

これは、「経済学を学ぶには、理論的に物事を解明する冷静な頭脳を必要とするが、そこには、階級社会の底辺に位置する人々の生活を何とかしたいという温かい心が必要だ」といった意味です。

新型コロナウイルスの状況下における経済活動を、冷静な頭脳で分析しなければなりません。
しかし、そうした分析の中には、本当に大変な状況にいる人へ温かな眼差しが必要です。

福祉の思想には、その眼差しの中に「自尊心を大切にする」という視点があります。

まず、収入がなく餓死してしまう、借金返済の目途が立たず命を絶ってしまう、こうした状況を生み出さないようにしなければなりません。

ただし、それだけでいいわけではありません。

自尊心は人が人として生きていく上で最も大切なものです。
仕事がない、解雇された、借金を重ねざるを得ない状況の中で、自尊心は大きく傷つきます。

経済活動は、人の生活だけでなく、命と自尊心を守るものでもあることを再認識したいと思います。

この記事を書いた人
中村 剛
中村 剛 - なかむら たけし -
福祉現場の経験と哲学という営みを通して、社会福祉の根拠となる「知」を明らかにしたいと思っています。

RELATED POST関連記事

  • 「大切なこと」をスケッチする⑧ ―読書体験の可能性―
      全国大学生協連(東京)の昨年の調査によると、大学生の48%が、1日の読書時間は「ゼロ」と回答しています。 一方、多くの人が「読書は大切」と言います。 大切である理由は、突き詰めて言えば、 [...続きを読む]
  • 「大切なこと」をスケッチする⑦ ―違いの配慮と自尊心の尊重―
      「福は内、鬼は外」という言葉があります。 この言葉が示すように、日本には内=家庭、外=家庭の外、という区別があります。 これに対応するのが公私です。 「私」は私事、家庭などの内輪、「公」 [...続きを読む]
  • 人を人として見れなくなる福祉教育の弊害
      福祉に関して学生と接していて気を付けていることがあります。 それは知識や技術を重視しすぎることで起きがちな「専門バカ」を生み出さないために何が必要かということ、そのための片方の重しをどの [...続きを読む]

LATEST POST最新の記事

  • 成功のカギは、結果が出るまで「待つ」ことができるかどうか
      競技スポーツには常に勝者と敗者が存在し、その差はごく僅か、紙一重です。 勝ち負けは2分の1、5割の確率で決まりますが、アスリート個人のパフォーマンスはどのくらいの確率で「成功」となるので [...続きを読む]
  • 言うまでもないこと
      先日、「暗黙の了解です」「言うまでもない前提なので」という事態に直面しました。 個人的には「ちゃんと言ってくれていたら・・・」という気持ちになりましたが、このような言わずもがなの事項は身 [...続きを読む]
  • 色彩と印象
      人は、第1印象(1秒~6秒程度)を、 ①外見や服装 ②表情・視線 ③話し方・声の質 ④しぐさ・姿勢 ⑤話す内容 で決定しているそうで、このことを「初頭効果」と言います。 初頭効果とは、最 [...続きを読む]
PAGE TOP