コラム

生きること自体に対する不平等 ―人間平等を再考する―

 
関西福祉大学の建学の精神の1つに「人間平等」があります。

これは、「人間は、一人ひとり違う。しかし、“大切な存在である”という意味(価値)においては平等である」ことを意味します。

そしてその精神は、「人間は価値においては平等のはずなのに、現実にはさまざまな不平等な扱いがある。そのことに目を向け、その不平等を無くそう」というものだと、私は理解しています。

こうした精神をもったすぐれた思想家にルソーがいます。
彼は『人間不平等起源論』の冒頭で「この書物で私は、自然が人間のあいだに作り出した平等と、人間が制度として作り出した不平等について考察をめぐらしました」と書いています。

ここでは「人間が作り出している不平等」の1つを取り上げたいと思います。
ほとんどの“いのち”は、この世界の中に生を受け、戸籍にその名が記載され、人生をスタートさせます。しかし、この世界に生を受けたものの「生きること」が叶わなかった“いのち”があります。

たとえば国の2017年度のデータでは、把握されている子どもの虐待死は52人。

このうち0歳児は28人。
さらに詳しく分析すると「0日」での死亡は14人。
つまり全体のおよそ4分の1が産まれたその日に死亡しているのです。

親が育てようとしないために「子どもにすらなることができなかった」“いのち”があるのです。

育児放棄をする親には重い責任がありますが、妊産婦を支える仕組みの不十分さ、さらには虐待の要因にもなっている貧困を生み出すメカニズムなど、社会の仕組み(制度)にも大きな問題があります。
人間が作り出している制度が1つの要因となり、生きること自体に対する不平等が生じているのです。

生まれてくる“いのち”は、最もか弱い存在です。
自分で、その状況を変えることはできません。

だからこそ、そうした存在の「声なき声」を聴き(感じ)、そこにある不平等に敏感であること。
そして、不平等を生み出す社会の仕組み(制度)を明らかにし、それを改善することが必要です。

これからも、こうした「人間平等」の精神に基づいた教育を展開していきたいと思います。

この記事を書いた人
中村 剛
中村 剛 - なかむら たけし -
福祉現場の経験と哲学という営みを通して、社会福祉の根拠となる「知」を明らかにしたいと思っています。

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