コラム

大切なことをスケッチする⑨ ー学生たちが宿している知性と大学教育の基本ー

 
授業の中で、時々、学生たちの素晴らしい知性や感性に感銘を受けることがあります。

その一例を紹介したいと思います。

実践的教養論という授業があります。
「実践的」な学びをするため、10月からは対面で行っています。
この授業で、原因を推測したり、ある目的を合理的に遂行したりする「理性(ロゴス)」だけではなく、その目的となっていることの妥当性を問う力、大切なことを見極められる「知性(ヌース)」も大切であることを伝えました。
その上で、「最も大切なこととして“愛”があるけれど、それはどんな意味だろう」と学生に投げかけ、4~5のグループに分かれ、対話してもらいました。

結果、
各グループで共通した意見は「その人を大切にする」でした。
その他、グループ別の見解としては、
①その人の幸せを願う
②その人を尊重する
③自分より格段に大切に思う
④自分を犠牲にしてでもその人のことを大切にする、護る
といったものでした。

愛はギリシア語ではアガペーですが、釜ヶ崎で日雇い労働者に学びながら聖書を、旧約部分はヘブライ語、新約部分はギリシア語から読み直している本田哲郎神父は、アガペーを「人をその人として大切にする」と訳すべきであることを提案しています。
また、アガペーについて研究をしている山口大学名誉教授の遠藤徹氏は「アガペーとは、尊びが中心にある愛」であることを明らかにしています。遠藤氏は、加藤信朗氏(哲学者)も「アガペーというのは、要するに大切にするということだと思いますよ」と言っていたことや、キリシタンの時代にアガペーは「お大切に」と訳されていたことなどにも言及しています。

対話してもらって分かったことは、学生は「愛」ということについて、「その本質的な意味を既に理解している」、そして、「本当に大切なことを理解している」という意味において、「学生たちは優れた知性をもっており、豊かな教養を宿している」ということです。

しかしながら学生たちは、それがいかに大切であるかは、まだ十分に理解できている訳ではありません。

であるならば、私たち教員の役割は、学生たちが宿している知性(何が大切であるかを見極められる力)に水をやることで、それを開花させることと言えるでしょう。

大学では、新しい知識や考え方を教授する一方で、学生たちが宿している「知性」を開花させることが求められます。

今回の対話は、そのような大切なことを再認識させてくれました。
 

この記事を書いた人
中村 剛
中村 剛 - なかむら たけし -
福祉現場の経験と哲学という営みを通して、社会福祉の根拠となる「知」を明らかにしたいと思っています。

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