コラム

「新型コロナと福祉思想」その3―差別とかけがえのなさ―

先日テレビを見ていると、熊谷晋一郎さんが、新型コロナウイルス感染拡大予防の状況において、感染者をカテゴライズ(感染者のグループをつくる)することで生まれる差別について話をしていました。

熊谷さんが言う通り、人間は、ユダヤ人、ハンセン病、障がい者など、グループ化(抽象化)することで、それらの人を差別し、さらには虐殺や隔離をしてきました。

いま、感染者とカテゴライズすることによる生じる差別を防ぐ必要があります。

差別を生み出すカテゴライズ(グループ分け)によって隠蔽されるのが、顔と名前をもった“かけがえのないこの人”です。

ユダヤ人として虐殺された一人ひとりは、ハンセン病で隔離された一人ひとりは、他の人とは決して替わることができない人生を生きていました。

そしてそこには、望み、喜び、諦め、絶望といった人の心がありました。

作家のなだいなださんは、「私たちの思考は、抽象化によって、現実から離れれば離れるほど、残酷な面が現れてきます。逆に、想像力の再現によって現実に近づきます」(なだいなだ『人間、この非人間的なもの』筑摩書房,1985年,pp.50-51)と述べています。

感染者として抽象化して差別するのではなく、その固有のかけがえの人生を想像し、その人のことを思いやれることができる。

そうしたことが求められているのではないでしょうか。

この記事を書いた人
中村 剛
中村 剛 - なかむら たけし -
福祉現場の経験と哲学という営みを通して、社会福祉の根拠となる「知」を明らかにしたいと思っています。

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