コラム

「大切なこと」をスケッチする①―忘れないこと、思いを馳せること

先日、「すべての子どもが、大人になれますように」という言葉が目に留まりました。

『グッド・ドクター』というドラマの再放送です。
そこには2人の女の子が登場します。脳死状態になった4~5歳くらいの小さな女の子と臓器移植を待つ中学生くらいの少女です。脳死状態になった女の子の両親の苦しみは筆舌に尽くし難いものがあります。
一方、臓器移植を待つ少女は「臓器移植を待つことは人の死を待つことであり、そうしたことを願っていいものか」と悩みます。

主人公(山﨑賢人さん)は両親に、「臓器移植を受ける少女の体の中で、臓器提供をした子も大人になってくれたらうれしい」と語ります。

少女のこれからの生を、自分の愛娘が支え、共に生きていけるなら、これからも娘の誕生日を祝い続けていける、と両親は臓器提供を決断します。

ここには大人になれる可能性をもった子どもと、「大人になる機会を持てなかった子ども」がいます。

誰もが「すべての子どもが、大人になれますように」と願います。

しかし、その一方で「大人になる機会を持てなかったおおぜいの子どもたち」がいます。

I.・B. シンガーというノーベル賞作家は、そうした子どもたちに『やぎと少年』という本を捧げました。
作家そして文学は、私たちが忘れてはいけない大切なものを言葉にします。
「大人になる機会を持てなかったおおぜいの子どもたち」はそうした言葉の1つです。

ここに『グッド・ドクター』というドラマを見て、もう1つ、言葉を添えることができました。

それは「大人になる機会を持てなかった子どもに思いを馳せる人がいる限り、その子はこの世界からいなくなったりはしない」ということです。

忘れないこと、思いを馳せること。これは、人として、とても大切なことだと思います。

この記事を書いた人
中村 剛
中村 剛 - なかむら たけし -
福祉現場の経験と哲学という営みを通して、社会福祉の根拠となる「知」を明らかにしたいと思っています。

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