コラム

「大切なこと」をスケッチする④―負担は「迷惑」でなく「分かち合うもの」

年を取り介護が必要になると、多くの人が「子どもには迷惑をかけたくない」と思うのではないでしょうか。

ここでは、介護の負担=迷惑と理解されています。

こうした捉え方に対する異議もあります。
その代表的な考えが「迷惑をかけてもいいじゃないか」というものです。

昭和54年に放送された『車輪の一歩』というドラマがあります。

障がいの問題を考える上でとても参考になる名作ですが、そこで主人公が車いすの若者に対して、「迷惑をかけてもいいじゃないか」といいます。

この言葉の言わんとすることは分かるのですが、「迷惑」という言葉に違和感を覚えます。

迷惑とは、ある行為がもとで、他の人が不利益を受けたり、不快に感じたりすることです。

介護が必要な状態は、他の人の介護という労力を強い、継続すると大変な思い(不利益、不快)をするから、介護の負担=迷惑と理解されるのでしょう。

ここでちょっと、考えてみたいと思います。

加齢にせよ、病気や障がいにせよ、自ら望んで介護が必要な状態になろうとする人はいません。

たまたま、Aさんは障がいにより、Bさんは病気により、また、Cさんが加齢により、介護が必要な状態になりました。
一方私は、たまたま介護が必要な状態にはなっていません。
しかし、50代の自分でも病気や障がいによりこの1年の間に、介護が必要な状態になるかもしれません。

これは、考え方の問題ではなく、私たちの生の根底にある「事実」です。

この「事実」に目を向けたとき、「たまたま、ある人とそのご家族は、(いつ終わるか分からない)介護が必要という負担=重荷を担い、私はそれを担っていない。でも、私がその負担=重荷を担っていたかもしれない」ということに気づきます。

ここに気づけば、その負担=重荷は「迷惑」ではなく、「分かち合うもの」であることが分かります。

『車輪の一歩』のラストシーンは、エレベーターやスロープもない駅の階段です。

障がいがあることで引きこもりがちだった車いすの女性が、周りの人たちに対して、勇気を振り絞って、「どなたか……私を上まで上げてもらえませんか」と、大きな声で叫びます。
この呼びかけは決して人に迷惑をかけるものではありません。

そうではなく、「分かち合い」への呼びかけなのです。

この記事を書いた人
中村 剛
中村 剛 - なかむら たけし -
福祉現場の経験と哲学という営みを通して、社会福祉の根拠となる「知」を明らかにしたいと思っています。

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