変わるのはだれか
本学で行っているSDGs(持続可能な開発目標)の取組み。
今となっては生活していればあらゆるところで耳にする言葉なのではないでしょうか。
先進国から開発途上国への一方的な「支援する−支援される」の関係から抜け出し、世界共通で同じ目標を持って取り組む姿勢については、好感を持てるものです。
さて、今回はSDGsにちなんで国際開発に関するちょっとしたエピソードを紹介しようと思います。
国際開発手法のひとつである参加型開発の第一人者として、元サセックス大学教授のロバート・チェンバースという人物がいます。参加型開発は、それまでの開発が、先進国の人々や開発途上国の一部のエリートの意見のみが反映されたものであって、現地で生活する人々のニーズに即したものになっていないという批判から誕生したものです。
チェンバースは、1983年に『第三世界の農村開発』、1997年に『参加型開発と国際協力』の著書を発表しているのですが、実はこの2冊、副題がとてもウィットに富んでいて、firstとlastの語順が逆になったのみです。
『第三世界の農村開発』の副題 「Putting the last first」(訳:最後尾の人を先頭に置く)、
『参加型開発と国際協力』の副題 「Putting the first last」(訳:先頭の人を最後尾に置く)
文脈に即して意訳すると、どちらも「開発途上国の人々の参加を促し、先進国の人々はそれを後方からサポートする」ということになり、参加型開発そのものを表したものになるかと思います。
結果の状態が一緒であれば、わざわざ変更させる必要はないのではないか、そのように思う方もいるかもしれませんが、実はこの2つ、かなり違うと思います。
この2つの違いは、「支援を受ける人々を前に意図的に動かす」のか、それとも「支援者自らが後方に動く」のかという部分ですが、この「支援者自らが後方に動く」という動作が参加型開発では重要だったのです。
たとえ支援者が支配的に関わっていないつもりでも、長年にわたり支援を受けてきた人々は、どこかで支援者の顔色を伺って振る舞う、発言するという場合があります。そういった人に対し、支援者自らが動いて後ろに回る、というこの姿勢がその人をエンパワーさせる重要な要素なのではないかと思います。
「対等だ」、「対話だ」、「パートナーシップだ」と言葉や態度で示しても、結局ソーシャルワーカーは専門職だとクライエントから見られる可能性があることを自覚し、まず自分から動く、「Putting the first last」の和訳である「変わるのはわたしたち」という姿勢を持ちながらクライエントと関わることをこれからも大事にしていきたいと思います。
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